楽しく学べる!財務・マーケティング NO.17
🟦1.利益償還と資金繰り償還
「利益で返す」は本当に正しいのか
借入金の返済財源は「利益」だと考える人は、金融機関の担当者を含めて少なくない。しかし、実際に返済に使われるのは利益ではなく手元のキャッシュ(現金預金)である。
利益は損益計算書上の概念であり、収益と費用の差額にすぎない。売掛金・買掛金といった商取引が存在する以上、利益がそのままキャッシュとして残るわけではない。
利益償還と資金繰り償還の違い
- 利益償還:損益計算上の利益から生じたキャッシュで返済する
- 資金繰り償還:利益以外の資金で返済する(例:新規借入で返済を賄う)
後者は融資審査ではネガティブに評価される。
金融機関は長年、損益計算書の利益=収益性を重視してきたため、返済の“真水”であるキャッシュフローへの意識が弱かった。しかし、企業は利益だけでなく、資金収支(キャッシュフロー)も健全であることが不可欠である。
したがって財務分析では、
- 損益計算:〈収益・費用・利益〉
- キャッシュフロー計算:〈収入・支出・収支〉 を明確に区別する必要がある。
🟦2.簡便法キャッシュフロー
簡便法が使われる背景
2000年の会計制度変更以降、キャッシュフローの概念は金融界・産業界に急速に浸透した。しかし中小企業ではキャッシュフロー計算書を作成していないケースが多く、現場では簡便法キャッシュフローを電卓で算出する担当者も少なくない。
簡便法キャッシュフロー =〈税引後当期純利益+減価償却費-社外流出〉
計算は簡単だが、これは1期分の財務諸表しかない場合の補助手法である。金融機関では通常3期分以上の財務諸表を入手するため、実務上の必然性は乏しい。
資金移動表があるのに簡便法を使う理由はない
多くの財務分析システムには従来から資金移動表が搭載されており、これがキャッシュフロー計算の役割を果たす。 にもかかわらず、資金移動表を使わず簡便法を手計算する担当者がいるのは不思議である。
資金移動表の「経常収支」は、キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローとほぼ対応する。 簡便法の最大の弱点は、運転資本の増減を反映しない点である。
簡便法と実際のキャッシュフローの差
ヤマダ電機のデータを分析すると、簡便法キャッシュフローと営業キャッシュフローには大きな差がある。
要点としては、
- 営業キャッシュフローは運転資本の増減を反映
- 簡便法は反映しないため、実態と乖離しやすい
融資審査でキャッシュフロー重視の流れが進む中、簡便法に頼るのは後退である。
🟦3.営業キャッシュフローと経常収支
資金移動表とキャッシュフロー計算書の違い
主な相違点は次の2つである。
- 法人税等の扱い 資金移動表:設備等収支に計上 CF計算書:営業キャッシュフローに計上
- 割引手形増加の扱い 資金移動表:財務収支 CF計算書:営業キャッシュフロー
したがって、 経常収支 − 法人税等 + 割引手形増加 ≒ 営業キャッシュフロー と考えることができる。
キャッシュフローは「新しい概念」ではない
キャッシュフローという言葉が広まる以前から、資金移動表の「経常収支」は融資審査の重要指標だった。ただ担当者の意識が向いていなかっただけである。
キャッシュフローが注目されるようになった今、経常収支を無視して簡便法を使うのは、 内視鏡検査の結果を見ずにレントゲンだけで診断するようなもの と言える。
融資審査で見るべきは「経常収支」
簡便法キャッシュフローではなく、資金移動表の経常収支を参照すべきである。 キャッシュフローは、実は「昔の名前」である経常収支として、すでに存在していたのである。
🟦まとめ
- 借入返済の源泉は利益ではなくキャッシュ
- 簡便法キャッシュフローは補助手法にすぎない
- 資金移動表の「経常収支」は営業キャッシュフローに近い
- 融資審査では簡便法より経常収支を重視すべき
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