NO.10 簡便法キャッシュフローと非資金項目の考え方

キャッシュフロー

このシリーズの全体構成はこちら(完全ガイド・全24本)

1.簡便法キャッシュフローについて

今回から、資金移動表を前提に キャッシュフロー(経常収支) を解説していきます。

前回触れたように、「黒字倒産の予兆は営業キャッシュフローのマイナスである」という新聞記事がありました。筆者もかつて倒産企業の財務データを集中的に調査したことがありますが、その結果は非常に示唆的でした。

  • 倒産企業80社の 約80%が、倒産期の直前期またはその前の期で経常収支がマイナス
  • 同じく 約80%が、倒産直前期に当期純利益を計上していた

つまり、約8割が黒字倒産 だったわけです。

以来、私は決算書分析において、まず 経常収支の状態を確認する ことを基本スタンスとしています。

資金移動表や経常収支の説明に入る前に、まずは俗に「簡便法キャッシュフロー」と呼ばれる概念を整理しておきます。

2003年の第1次アクションプログラム以降、私は金融業界の「目利き研修」で講師を務めてきました。その際、受講者に必ず次の質問をしてきました。

「皆さんの組織では、キャッシュフローをどのように認識していますか?」

延べ500人以上に聞きましたが、ほぼ100%が 簡便法キャッシュフロー と答えます。

計算式は次のとおりです。

  • 当期純利益 + 減価償却費 − 社外流出(配当金等)
  • または 経常利益×50% + 減価償却費 − 社外流出

考え方は同じです。

しかし、簡便法キャッシュフローは文字通り「簡便法」であり、 わざわざ計算する意義はほとんどありません。

現在の金融界では、決算書分析はコンピュータシステムで行われ、

  • 流動比率
  • 当座比率
  • 資金移動表
  • キャッシュフロー計算書

などが自動で精緻に算出されます。

その状況で、手計算の簡便法を使う意味は薄いのです。

2.非資金項目 ― 減価償却費ほか

簡便法キャッシュフローの最大の問題点は、 非資金項目として減価償却費しか考慮していない ことです。

まず、非資金項目とは何かを整理します。

● 損益計算とキャッシュフロー計算の違い

損益計算は

  • 収益
  • 費用
  • 利益
  • 損失

という概念で構成され、 収益 − 費用 = 利益 で認識されます。

一方、キャッシュフロー計算(資金収支)は

  • 収入
  • 支出

という概念で構成され、 収入 − 支出 = 収支尻 となります。

売上の中には「まだ現金化していないもの」がある

売上には、

  • 売掛金
  • 受取手形

など、現金化していない項目が含まれます。 これが 非資金項目(収益側) です。

売上高1,000万円で、売掛金が期首・期末とも0ならば、売上(収益)=収入となります。

一方、期首売掛金100万円、期末売掛金200万円の場合、収入は1,000ー(200-100)=900万円となります(図表1)。

費用にも、現金支出を伴わない項目があります。 その代表が 減価償却費 です。

減価償却のイメージ

例えば、5年前に500万円で購入した車両を考えてみましょう。 現在、その車両に500万円の価値はありません。

そこで、毎期100万円ずつ減価償却費として費用計上し、 同額をBSの簿価から減額します。

  • 減価償却前の営業利益:300万円
  • 減価償却後の営業利益:200万円

しかし、減価償却費は現金支出を伴いません。

そのためキャッシュフロー計算では、 減価償却費を費用から控除(または利益に加算) します。

間接法キャッシュフロー計算書や簡便法キャッシュフローは、この考え方に基づいています。

減価償却費以外の非資金項目

費用側の非資金項目には、次のようなものがあります。

  • 貸倒引当金
  • 退職給与引当金
  • 賞与引当金

しかし簡便法キャッシュフローでは、 減価償却費しか考慮しません。

さらに重大なのは、 運転資金の増減(売上債権+棚卸資産−買入債務)を加味していない ことです。

これはキャッシュフロー分析において致命的です。 この点は次回詳しく扱います。

なぜ簡便法キャッシュフローが好まれるのか

私の研修では、ほぼ全員が簡便法キャッシュフローを挙げます。 これは業界特有の傾向かもしれませんが、他業態にも一定程度あると思います。

理由のひとつは、 金融庁の検査で簡便法がよく使われる という誤解があるからです。

しかし、金融検査マニュアルは簡便法を定義していません。

金融検査マニュアルの記述

マニュアルでは次のように書かれています。

「キャッシュ・フローとは、当期利益に減価償却費など非資金項目を調整した金額をいう。」

一見、簡便法と同じに見えますが、

  • 「当期純利益」ではなく「当期利益」
  • 非資金項目は「減価償却など」と明記(=他の項目も含む)

と、簡便法とは異なります。

さらにパブリックコメントへの回答では、

「当期利益」は必ずしも損益計算書上の最終利益を示すものではない

と明言しています。

つまり、 簡便法キャッシュフローはマニュアルでオーソライズされていない のです。

精緻な資金移動表があるのに簡便法を使うのは不合理

資金移動表は、非常に精緻な計算を行っています。 それを使わず、わざわざ電卓で簡便法を計算するのは、

内視鏡検査の結果を見ずに、レントゲン写真だけを眺めるようなもの

です。

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