前回までの流れ
NO.19〜NO.22 では、 運転資金 → 経常収支 → 経常収支比率 → インカバ という順で、X社のキャッシュフロー構造を段階的に分析してきました。
前回(NO.22)は、経常収支比率の理想値とインカバを計算し、 第13期のキャッシュフロー悪化の深刻さ を確認しました。
今回はその続きとして、 修正経常収支(=不健全資産の増加を控除した実質CF) と 減価償却率の計算 を行い、キャッシュフローの健全性をさらに深掘りします。
1. 修正経常収支とは何か
修正経常収支とは、 経常収支から“不健全資産の増加額”を差し引いた指標です。
不健全資産とは、キャッシュを生まない、または回収可能性が低い資産のこと。 ここで扱うのは次の4科目です。
- 短期貸付金
- 前払費用
- 長期貸付金
- 長期前払費用
これらの 対前期増加額 を経常収支から控除することで、 企業が実質的に生み出したキャッシュフローを把握できます。
2. 演習1:修正経常収支の計算
▼ 図表1:不健全資産の増加額(A)
X社のBS資産の部から不健全資産の増加額を算出します。
【不健全資産の増加額(A)】
科目 第12期 第13期
短期貸付金 -1,516 6
前払費用 801 69
長期貸付金 664 1,493
長期前払費用 112 -52
————————————–
合計(A) 61 1,516
▼ 経常収支(B)
(NO.20 で算出済)
- 第12期:9,023
- 第13期:1,908
▼ 図表2:修正経常収支(B − A)
【修正経常収支】
期 経常収支(B) 不健全資産増加(A) 修正経常収支(B−A)
第12期 9,023 61 8,962
第13期 1,908 1,516 392
分析ポイント
- 第12期:不健全資産の増加が小さく、経常収支との差はわずか
- 第13期:修正経常収支は 392(=約20%) にまで低下
- これは、NO.19 以降で確認してきた 「第13期からキャッシュフローが急速に悪化している」 という結論を裏付ける結果
3. 減価償却費の少なさに着目する
図表3(簡便法経常収支)を見ると、減価償却費が極端に少ないことがわかります。
▼ 図表3:簡便法経常収支
【簡便法経常収支】
期 経常利益 減価償却費 運転資金増分 簡便法経常収支
第12期 5,016 99 -2,674 7,789
第13期 5,634 128 3,385 2,377
利益構成比率(=経常利益 ÷(経常利益+減価償却費))を計算すると:
- 第12期:98.1%
- 第13期:97.8%
利益のほぼ全てが経常利益で構成されており、 減価償却費が極端に少ない → 減価償却不足の可能性が高い。
そこで、減価償却率を計算します。
4. 減価償却率の計算
▼ 図表4:土地を除く有形固定資産残高
【土地を除く有形固定資産残高】
期 有形固定資産 土地 土地を除く償却資産
第11期 4,636 3,286 1,350
第12期 6,572 4,466 2,106
第13期 8,111 5,551 2,560
▼ 償却前償却資産の計算式
償却前償却資産 =(期首償却資産 + 期末償却前償却資産)÷ 2 期末償却前償却資産 = 期末償却資産 + 当期減価償却費
▼ 図表5:償却前償却資産
【償却前償却資産】
期 減価償却費 償却前償却資産
第12期 99 1,778
第13期 128 2,397
▼ 図表6:減価償却率
減価償却率 = 減価償却費 ÷ 償却前償却資産
【減価償却率】
期 減価償却率
第12期 0.0557
第13期 0.0534
分析ポイント
- 減価償却率は 約5%台
- 旧定額法の償却率に照らすと、耐用年数は 約20年程度
- ただし、モデル決算書は加工されているため深追いは不要
- 重要なのは、 「減価償却率の算出方法と分析プロセスを理解すること」
5. 実務での注意点
税務申告書(別表十六)を入手できる場合は必ず確認する。
- 「当期償却額」が適正か
- 決算書の減価償却費と一致しているか
減価償却費は利益を大きく左右するため、 実務では最重要チェック項目のひとつです。
第3部まとめ
― キャッシュフロー分析は “運転資金・経常収支・不健全資産” で決まる ―
第3部の演習を通じて、次のポイントが明確になりました。
- 運転資金の理解は融資判断の基礎
- 簡便法CFは実務では使えない
- 経常収支比率は「100%超なら安心」ではない
- 不健全資産の増加は修正経常収支で補正する
- 減価償却不足は利益を過大に見せる
- 金利負担能力(イン・カバ)は経常収支とは別物
キャッシュフロー分析とは、 「利益」ではなく「資金の動き」を読む技術 です。
次回予告(最終 NO.24 へ)
第4部では、第3部の演習内容を総括し、 キャッシュフロー分析の手法を整理したうえで、 収益性分析の基本 について解説します。
