楽しく学べる!財務・マーケティング NO.12
🟦1.新興企業への融資判断はなぜ難しいのか
設立から3期を経たある企業の主要指標を見てみると、第2期は売上こそ伸びているものの、経常利益はかろうじて黒字、当期純利益は赤字。投資活動によるキャッシュフローは営業キャッシュフローを大きく上回り、その資金の多くは財務キャッシュフローに依存している。
業種や資金使途を無視して数値だけで判断するのは乱暴だが、金融機関の担当者がこの企業から第2期末に融資申込を受けたとしたら、慎重な姿勢を取るケースが多いだろう。実際、当時ほとんどの金融機関が融資を断っている。
ところが、この企業こそ 2001年にナスダック・ジャパン(現:ヘラクレス)へ上場したタリーズコーヒージャパン である。上場準備に入るころには、かつて融資を渋った都市銀行が次々と融資を持ちかけてきたという。 同社の経営企画室長は、「銀行は過去の業績しか見ず、ブランドのような“見えない事業価値”を評価する仕組みがない」と語っていた。
🟦2.業歴の長さ=安全性、は本当に正しいのか
金融機関では「業歴が長い」ことを好材料として扱う傾向が強い。確かに長い業歴は経営資源の蓄積や信用力の高さにつながる。しかし、タリーズのように 設立3期目で上場する企業 を対象とする場合、業歴の長さはほとんど意味を持たない。
業歴偏重の姿勢を続ければ、金融機関の融資ポートフォリオは“高齢化社会の縮図”のようになってしまう。
財務分析は「過去の姿」を映すものであり、企業の現在や将来を直接示すものではない。それにもかかわらず、財務分析結果を“現在の実力”と捉えてしまう担当者は少なくない。担保や保証に頼らず企業の本質的な力を評価できる担当者は、残念ながら多くないのが実情である。
🟦3.事業性評価が求められる時代へ
金融界では格付けシステムなど信用リスク管理が大きく進歩した。しかし、例えるなら「漁港で魚を仕分ける仕組み(格付け)は整ったが、漁船で魚を選び取る技術(目利き力)は進化していない」状態とも言える。
地域金融機関は中小企業融資の特殊性を強調しつつも、審査の中心は依然として財務分析に偏っている。「事業性評価」が金融庁から提示され、ローカルベンチマークや知的資産経営報告書、PEST分析、5フォース分析、3C分析などのフレームワークが紹介されてきたが、現場で十分に活用されているとは言い難い。
将来の優良企業を見極める力の必要性を否定する金融機関はほとんどない。しかし、その方法論を確立できている金融機関もまた少ない。
🟦4.マーケティング分析が“目利き力”を支える
NO.4で述べたビジネス・システムを含め、企業活動のプロセスを多面的に捉えるのがマーケティング分析である。 タリーズの事例は結果論と見る向きもあるが、少なくともマーケティング分析では 業歴の長さは評価軸にならない。
企業の将来性を見抜くためには、財務データだけでなく、
- 顧客価値
- ブランド力
- ビジネスモデル
- 市場環境 といった“見えない資産”を読み解く視点が不可欠である。
追記
ある金融機関向けテキストには、20世紀後半まで「業歴1年未満の企業は融資対象として相応しくない」と明記されていた。時代は変わったが、融資判断の価値観はまだ完全には変わりきっていないのかもしれない。
■参考文献
マーケティングの発祥は20世紀初頭のアメリカで、思想的背景としてW・ジェームズの”プラグマティズム”がありました。
司馬遼太郎『この国のかたち』(1)文春文庫
「商品経済の思想とは、モノを観念でみずにモノとしてみる考えかたである。(略)質と量でモノを見、学問や思想までをそのように見直すところから、世界史上の近代が始まる」 これは”プラグマティズム”で、マーケティングの起源に通じる考え方です。
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