1. 小松左京「流れる女」と“流れの物語”
小松左京に「流れる女」という傑作短編がある。 芸妓として各地を渡り歩いた女性と主人公の男性が出会う、ロマンチックでどこか怪奇味を帯びた物語だ。 小松には「女」シリーズと呼ばれる上質な短編群があり、ハルキ文庫の『くだんのはは』『高砂幻戯』の2冊で読むことができる。
2. 小林旭「昔の名前で出ています」──1975年のヒット曲
小林旭の「昔の名前で出ています」は1975年に発売された。 各地の酒場を“流れる女”の心情を、男の視点で歌うという構図は、小松作品のテーマとどこか響き合う。
3. 地名と名前が織りなす巧みな構成
主人公の女性は京都から神戸へ移り、最後に横浜(ハマ)へ戻ってくる。 歌詞に登場する名前の変遷は次のとおりだ。
- 京都:忍
- 神戸:渚
- 横浜:ひろみ
1番で「忍」、「渚」と来て、3番で初めて「ひろみ」という“昔の名前”が明かされる。 この構成が非常に巧みで、物語としての引きを生んでいる。
4. 横浜へ“戻る”という意味──女性の素性と物語性
歌詞では横浜へ「戻った」とある。 つまり、この女性の出身地は横浜なのだろう。 男性と出会ったのも横浜だったのかもしれない。
京都・神戸での源氏名らしい「忍」「渚」に対し、「ひろみ」は素朴で本名のように響く。 その対比が、女性の人生の“本当の場所”を静かに示している。
5. コピーのようなタイトルが支える完成度
「昔の名前で出ています」というコピーのようなタイトルも含め、全体としてよくできた歌である。 短い物語の中に、女性の過去と土地の匂いが凝縮されている。
作詞の星野哲郎が酒場で飲んでいると別の酒場の女性から電話が入った。別のお店に移ったという。「名前は?」と尋ねると「昔の名前で出てるわよ」と答えて電話が切れた。星野は思わず「出来た」と言ったそうです。
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小林旭については、小林信彦・大瀧詠一責任編集『小林旭読本:歌う大スターの伝説』という充実した内容の本があります。大瀧詠一氏が音楽家として優れた仕事をされています。
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