楽しく学べる!財務・マーケティング NO.13
🟦1.この企業をなぜ評価するのか
知人の金融コンサルタントH氏は、コラム「だって好きなんだもん♡」の冒頭で次のようなエピソードを紹介している。
「だって好きなんだもん♡」 「これは1990年代、若い女性行員が融資案件の取上理由として意見書に書いたフレーズである。製品が“カワイイから”という理由もあった。しかも当時流行していた丸文字で書かれていた。 こうした意見書を受け取った上司の衝撃は想像に難くない。当時、営業店を回ると、意見書の直撃を受けた融資課長が机に突っ伏している光景をよく見たものだ。」
この引用は誤解を招きかねないため補足しておく。H氏によれば「だって好きなんだもん♡」は “Because is a woman’s reason.” の大胆な意訳であり、これはシェークスピアの戯曲に登場する表現だという。 “I like it, because I like it.”(好きだから好き)という循環的な理由づけを指す言葉であり、H氏は「そんな昔の表現まで責任は持てない」と強弁している。
もちろんコラムはフィクションだが、実際にも「だって好きなんだもん♡」レベルの意見書しか書けない担当者は少なくない。研修講師としての経験からも、
- 「取引振り良好」
- 「業績は順調に推移」 といった使い古されたフレーズを並べるだけで“分析した気”になっているケースは多い。
しかし、企業分析とは対象を客観化する作業である。 「この企業をなぜ評価するのか(しないのか)」を論理的に説明できなければ、財務指標やマーケティング理論を覚えても分析力は向上しない。 恋愛なら「だって好きなんだもん♡」で済むかもしれないが、企業分析ではそうはいかない。
🟦2.「お約束」の世界
NO.1で述べたように、金融機関の担当者には「パッチワーク発想」が根強い。 たとえば利益率が低下している企業に対し、
- 「利益率の向上が必要である」
と書いてしまう典型的なパターンだ。
これと並んで、金融マンに多いのが“お約束”の思考である。財務指標の変化に対して、いつも同じ原因を当てはめてしまう傾向だ。
例としては次のようなものがある。
- 売上債権回転期間が長期化 → 不良債権の可能性
- 棚卸資産回転期間が長期化 → 不良在庫の可能性
- 利益率の低下 → 固定費削減が必要
これらは確かに“可能性”としては正しい。しかし、企業分析は穴埋め式の試験ではない。 決まりきった答えしか浮かばないのは、知識と想像力が不足している証拠である。
実際には、同じ財務数値の変化でも、背景には多様な要因が存在する。
🟦3.財務分析とマーケティングの接続
たとえば、プッシュ戦略(NO.5)を採用するメーカーでは、卸売業者や小売業者に対して
- 応援
- 説明
- 資金援助
- 特別出荷
- アロウワンス(機能対価リベート)
などのサポートを行う。 その結果、売上債権や棚卸資産の増加が財務指標に表れることがある。
つまり、財務分析の結果はマーケティング活動の反映であり、数字の背後にある実態はヒアリングなどで確認すべきである。
金融機関では財務分析(定量分析)に偏りがちだが、 定量分析と定性分析(マーケティング分析)を統合して考えられる担当者はまだ少数派 というのが実感である。
🟦4.まとめ:企業分析は“理由づけの技術”である
企業分析とは、
- 事実を観察し
- 背景を推測し
- 論理的に説明する
という知的作業である。
「だって好きなんだもん♡」ではなく、 “なぜそう評価するのか”を言語化できることが、分析者としての力量を決める。
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