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🟦1.日本的経営と「行動性」の根づき方
欧米、特にアメリカで発展した「分析型戦略論」は、企業の内外環境を分析し、そこから戦略を導くという論理的アプローチを重視する。しかし、日本企業にこの手法が十分に根づいたとは言い難い。 その背景には、日本企業が長く「行動性」を中心とした経営パラダイムを持っていたことがある。
戦後の日本企業は欧米企業の“フォロワー”として、戦略もオペレーションも模倣を基本とした。特にオペレーションの改善に注力し、いわゆる“KAIZEN”によって競争力を高めてきた。この成功体験が、戦略よりも行動・実行を重視する企業文化を強固にしたと言える。
ただし、優良企業の多くは行動性だけでなく、戦略の根幹である「論理」を軽視していたわけではない。研究書などからも、彼らが戦略的思考を持っていたことは明らかである。
🟦2.行動性が生むリーダーシップ偏重
オペレーション中心の経営では、自然と「まず動く」ことが重視される。経営者が先頭に立ち、組織を引っ張るスタイルが定着したのもそのためである。
しかし、環境が複雑化した現在では、行動だけでなく戦略の重要性が増している。 企業業績が「戦略 × オペレーション」で決まるとすれば、リーダーシップは後輪を回すペダルの力に相当する。いくらペダルを強く踏んでも、前輪(戦略)が正しい方向を向いていなければ成果は出ない。
それでもなお、戦略性よりもリーダーシップや戦術を過度に重視する経営者が少なくない点は、日本企業の課題として残っている。
🟦3.源平屋島の合戦に見る「個人戦」文化の根強さ
1185年、源氏が屋島に陣取る平氏を攻めた際のエピソードが『吾妻鏡』に記されている。 海上に広がる平氏の大船団に対し、総大将・源義経が先陣を切って突撃しようとしたとき、随行していた公家・高階泰経が静かに諫めた。
「泰経、兵法を知らずといえども、推量の及ぶところ、大将軍たる者はいまだ必ずしも一陣を競わざるか」
つまり、「総大将が真っ先に突撃するのは本来の戦い方ではないのではないか」と控えめに指摘したのである。しかし義経はこれを振り切り、数艘の船を率いて海へ漕ぎ出した。結果として源氏は勝利したが、戦略的に見れば泰経の指摘のほうが妥当であったと言える。
この逸話は、当時の日本の戦争が組織戦ではなく「個人戦」であったことを象徴している。日本の武士が本格的な組織戦と向き合うのは元寇のときであり、まさに「異種格闘技戦」であったとされる。 この個人戦的な価値観は、現代の中小企業経営者の行動様式にもどこか残っているように見える。
浅野裕一氏は、『「孫子」読む』(講談社現代新書)において次のようなことを述べている(大意)。
子ども向けアニメに登場する戦士たちが、戦闘中に自らの技を相手に宣言しながら戦う様子を引き合いに出し、源平時代の騎馬武者の戦い方と重ね合わせている。長年培われた国民性は、そう簡単には変わらないという指摘は興味深い。
🟦4.戦略とは「何をするか」を決める抽象概念である
経営の現場では、抽象的な思考プロセスを排除し、数値化することが分析だと誤解している人が少なくない。しかし、戦略とは本来「何をするか(What to do)」を決めるための抽象的な概念である。
中小企業では、組織規模が小さいため、経営者自身が動かなければ物事が進まないという現実がある。それでもなお、経営者も分析担当者も、戦略とオペレーションを明確に区別する必要がある。 行動性は重要だが、行動だけでは方向性を誤る危険がある。戦略は、行動に意味を与える“前提”である。
🟦5.AI時代における戦略分析の価値
近年、AIの進化によって「分析型戦略論を実践してきた戦略コンサルタントの存在意義が薄れるのではないか」という議論が一部で見られる。しかし、戦略策定の前提となる分析は、AIが全面的に代替できるほど単純ではない。
分析とは、単なるデータ処理ではなく、
- 何を問題と捉えるか
- どの視点で構造化するか
- どのような仮説を立てるか といった高度な抽象化と解釈のプロセスを含む。 AIは強力な補助ツールにはなるが、戦略の本質的な思考を完全に置き換えることはできない。
補記
『孫子』とクラウゼヴィッツ『戦争論』は以前に読みました。経営戦略の参考になればと思って手に取ったのですが、もともとは軍事戦略の古典ですから、内容をそのままビジネスに当てはめられるわけではありません。ただ、資格試験の参考書のように「答え」が書いてある本ではないからこそ、抽象度の高い思考を鍛えるには最適だと感じました。
その意味で、どちらも読みごたえのある本です。 記事で引用した『「孫子」を読む』は、原典よりも平易で理解しやすく、最初の一冊としてもおすすめできます。
次の記事(NO.11「犬でも売れる!?-差別化と価格競争-」)はこちらです。
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