平均年齢20歳の女性に会いたい ― 平均値に対する幻想 ―

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🟦1.平均年齢20歳の女性たち ― 平均値が“標準値”にならない理由

室内に「3人の女性がいて、その平均年齢が20歳だ」と聞いたら、 多くの人は“ハタチ前後の若い女性が3人いる”光景を思い浮かべるだろう。

しかし実際には、 「60歳の女性が1人と、生まれたばかりの赤ちゃんが2人」 という組み合わせもありうる。

このように、元データに「ばらつき」が大きい場合、 平均値は“標準値”としては機能しない。

財務分析で対象企業のデータを業界平均と比較する際には、 この点に十分注意する必要がある。 評価の基準となる平均が標準値としての性格を持っていなければ、 分析の前提そのものが崩れてしまうからだ。 (歪んだモノサシでは、正しい長さは測れない。)

分散と標準偏差で“ばらつき”を測る

  • 分散:各データの「偏差(平均からのズレ)」の2乗の平均
  • 標準偏差:分散の平方根(元データと同じ単位を持つ)

文章だけではイメージしにくいので、表1・表2を参照してほしい。

表1

表2

  • 表1:冒頭の例(60歳+0歳+0歳)の分散=800
  • 表2:偏差が小さい場合の分散=0.67
  • 標準偏差はそれぞれ
    • √800=28.3
    • √0.67=0.82

証券投資では、株式の月次収益率の分散・標準偏差をリスク指標として用いる。 期待収益率(平均)が同じでも、分散が大きい銘柄はリスクが高いと判断される。

“若い女性がいる”という幻想とリスクの話

盛り場では、冒頭の例のように「若い女性がいますよ」と偽って客を誘う店があるらしい。 この場合の正しい対応は、 平均年齢だけでなく、分散(または標準偏差)も確認すること である。

表1より表2のほうがリスクが低いことは明らかだ。 (この例は男性が多い研修で使うと、なぜか理解が非常に早い。)

🟦2.平均値を「理想値」と誤解する危険

ここまでは平均に関する“知識”の話だが、 比較分析では 平均値に対する“考え方” が問われる。

研修で次のような事例を提示することがある。

A社の事例に見る“パッチワーク発想”

<A社>

・1人当たり売上高 < 業界平均値

・1人当たり人件費 > 業界平均値

・売上高増加率・利益率とも低下傾向

この事例に対してコメントを求めると、多くの受講者はこう答える。

「A社は生産性が低い。 だから人件費(または従業員)を削減して、 業界平均まで下げるべきだ。」

これは NO.1 で述べた“パッチワーク発想” そのものである。

企業や従業員にとって人件費・人員削減がどれほど痛みを伴うかへの配慮がなく、 その実施に至るプロセスも無視している。 まず取り組むべきは、 売上や利益率が低下している原因の分析 である。

平均値を“理想値”や“最善値”と短絡的に扱う点も問題だ。

多くの企業が平均以上を目指せば、 業界平均そのものが上昇する という当たり前の事実を見落としている。

比較するデータがあっても、 比較結果がそのまま解答になるわけではない。 これは分析的思考の有無に関わる。

平均は“重心”であって“典型”ではない

平均とはデータ全体の重心(バランス・ポイント)であり、 あくまで“目安”にすぎない。

人口重心という概念がある。 国民一人ひとりが同じ重さを持つと仮定し、 国内の人口分布を1点で支えてバランスする点のことだ。 2000年以降、日本の人口重心は岐阜県関市内にある。 写真を見ると緑豊かな場所だが、 そこが「日本の典型的な居住地」などとは言えない。 そもそもそんな表現自体が成立しない。

サイコロの目の平均は 3.5 だが、 サイコロを何百回振っても 3.5という目は絶対に出ない。

盛り場をどれだけ歩き回っても、 「平均年齢20歳の女性」には絶対に出会えない のである。

🟦3.平均値との付き合い方 ― 財務分析で本当に見るべきもの

  • 平均値はあくまで“目安”
  • ばらつき(分散・標準偏差)を必ず確認
  • 比較結果=解答ではない
  • 原因分析こそ企業分析の本質

次の記事(NO.3「流動比率なんかいらない!?-財務分析における同意反復-)はこちらです。→公開準備中

前の記事(NO.1「穴があったらふさぎたい-パッチワーク発想の問題点-」)はこちらです。

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