真の差別化は「見えないところ」に宿る ― ビジネス・システムの差別化 ―

楽しく学べる!財務・マーケティング

楽しく学べる!財務・マーケティング NO.4

このシリーズの全体構成(全25本・INDEX)はこちらです。

🟦1.ハードは模倣できるが、ソフトは模倣できない

―「ハードはソフト、ソフトはハード」の意味―

コンビニエンスストア(CVS)を調査した際、大手チェーンの1店舗当たり平均日商を算出したところ、セブン‐イレブンは63万円、ローソンは51万円だった。店舗面積、アイテム数、24時間営業といった条件はほぼ同じで、全国に2万3千店舗を展開した結果として12万円もの差が生じている。数百円の商品が中心であることを考えると、この差は驚異的である。

確かに、セブン‐イレブンは東京・埼玉・神奈川といった経済力の高い地域に多く出店していた。一方、ローソンは関東圏での展開にハンディがあった。しかし、POSシステムや物流などのハード面に大きな差があったとは考えにくい。両社の差は、受発注の精度、オペレーションのノウハウ、パート・アルバイト教育など、ソフト面のレベルに起因していたと考える方が自然である。

店舗の外観やレイアウト、情報システム、製品デザインといったハードは模倣が容易だ。しかし、出店場所の選択、仕入れのタイミング、商品選択の眼力といったソフト面は、他社が簡単に真似できるものではない。こうした「インビジブルな要素」による差別化は、複雑なビジネス・システムに内在しているため、競合からは見えにくく、模倣も難しい。

ノーベル経済学賞受賞者ハーバート・サイモンは、この現象を「ハードはソフト、ソフトはハード」と表現した。つまり、表面的なハードよりも、見えないソフトこそが強固な競争優位を生むのである。

🟦2.理念を「制度」にまで落とし込む力

― ユニクロが示す“見えない差別化” ―

ビジネス・システムによる差別化には、経営理念の浸透度といった抽象的な要素も含まれる。ユニクロ(ファーストリテイリング)はSPAという業態を採用し、製造領域にまで踏み込むことで小売業の弱点を克服したが、同社には23項目もの経営理念が存在する。

1994年の広島証券取引所上場時には17項目であったが、それでもコンサルタントから「5つ程度に整理すべき」と助言された。しかし柳井正社長は「一つ一つに意味がある。なぜ減らさなければならないのか」と反論したという。その後、理念はむしろ増えている。

柳井氏は「社員が能力を発揮できる会社にするには、会社が何のために存在するのかを明確にしなければならない。多くの日本企業は経営理念という基本部分が抜けている」と述べている(読売新聞 2001年8月8日)。

ユニクロは完全実力主義の人事制度を導入しているが、他社が制度だけを模倣しても同様の成果は得られない。理念が浸透していなければ、モラールが下がり、組織の実行力も低下するからだ。制度というハードだけを真似ても、理念浸透というソフトは模倣できない。

優れた企業は理念を抽象的な言葉で終わらせず、社員の日常行動にまで落とし込む。これを「理念の制度化」と呼ぶ。松下幸之助氏も経営理念の重要性を繰り返し説いたが、まさにその実践がビジネス・システムの差別化につながる。

表面的な成功例を模倣する企業は多いが、組織のメンタルな部分まで含めた差別化は模倣が極めて難しい。真の差別化は、やはり目に見えないところに宿るのである。

●追記

大学でこの話をした際、「ユニクロの社員は23項目すべてを言えるのだろうか」と学生に問いかけた。講義後、ユニクロの内定者だという学生が「ユニクロでは契約社員も含め、23項目のどこに読点を打つかまで含めて全員が暗唱している」と教えてくれた。理念の制度化とは、まさにこういうことである。

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