ローリング・ストーンズのようにやりなさい ―ケーススタディとしてのブランド研究―

楽しく学べる!財務・マーケティング

楽しく学べる!財務・マーケティング NO.8

このシリーズの全体構成・INDEXはこちらです。

🟦1.金融機関職員のアドバイス能力とは何か

金融機関の職員は、企業を「評価」することには慣れている。財務分析の結果を眺めて「この企業の問題点は○○だ」とコメントすることは得意だ。しかし、それを実際に経営者へ助言するとなると話は別である。多くの場合、助言する覚悟までは持ち合わせていない。

経営者にアドバイスすることが難しい理由のひとつは、信頼を得ることの難しさにある。信頼できない医者の診断を患者が信用しないのと同じで、経営者も「自分のほうが経営を理解している」と考えている。実際には業界慣習に詳しいだけというケースもあるが、金融機関側もその慣習を十分に理解しているとは言い難い。

「経営者と金融機関職員のどちらが経営を理解しているか」という問いは簡単ではない。公平に見れば、金融機関側が不利だろう。彼らが理解しているのは経営そのものではなく財務である。しかし「財務=経営」と短絡的に考えてしまう人が多い。その結果、収益性が低ければ即「コスト削減」といった、パッチワーク(NO.1)的で画一的な発想に陥りがちである。

🟦2.経営アドバイスにはマーケティング理解が不可欠

経営を理解するとは、すなわちマーケティングを理解することである。財務は結果であり、経営アドバイスには「結果を生む仕組み」や「プロセス」を分析する視点が欠かせない。しかし、この視点が金融機関の教育体系にはほとんど組み込まれていない。

そのため、マーケティング経営学を学ぶには自己啓発に頼るしかない。勉強熱心な職員が陥りがちな誤りがある。 それは、トップ企業の事例をそのまま中小企業に当てはめて語ってしまうことだ。

たとえば、かつてのイトーヨーカ堂セブン‐イレブンの成功事例を持ち出しても、多くの中小企業経営者にとってはリアリティがない。アマチュアバンドに向かって「ビートルズはこうやった。ローリング・ストーンズのようにやりなさい」と言うようなもので、距離がありすぎて参考にならない。

🟦3.研究対象としてのローリング・ストーンズ

「例えば……」としてトップ企業の事例を挙げること自体はレトリックとして自然である。しかし、例が適切でなければ説得力は生まれない。

一方で、ローリング・ストーンズの成功要因を分析することは、マーケティングケーススタディとして非常に有効である。ロックバンドだからといって研究対象として不適切ということはない。研究の科学性は対象の種類ではなく、アプローチの科学性によって決まるからだ。

ローリング・ストーンズは、60年代から現在までトップに君臨し続ける唯一のロックバンドと言ってよい。70年代前半に獲得した「世界最高のロックンロールバンド」というブランドを、50年以上維持してきた。急速に産業化したロックビジネスの中で、これほど長期にわたり商業的成功を続けることは並大抵ではない。

必要最小限のメンバーチェンジでグループを維持し続けたミック・ジャガーのマネジメント能力は、企業経営者にも通じるものがある。

🟦4.ブランド研究としての価値

ストーンズの成功は、ハーレー・ダビッドソンのようなブランド企業と同様、ブランド・マーケティングの優れた教材である。研究材料も豊富だ。数十枚のCDという「一次資料」があり、メンバーのインタビューという「サブテキスト」も揃っている。

マーケティング経験科学であり、事例研究はその中心的な方法論である。異分野の事象に同じ構造を見出すことは、レトリックにおけるアナロジー(類推)の技法でもある。マーケティングを学ぶには、こうした柔軟な視点が欠かせない。

🟦5.ストーンズという“奇跡”

ローリング・ストーンズの最新作『Hackney Diamonds』(2023年)は、60年を超えるキャリアの“現在地”を示す作品として高い評価を得ている。
1963年のデビューから第一線で走り続けるバンドが、なおも新作で世界を驚かせる――これはもはや、ひとつの“奇跡”と呼ぶほかない。
Amazonで『Hackney Diamonds』を見る

補記:ストーンズを研究するための「一次資料」

ストーンズは長い活動期間ゆえにベスト盤も数多く存在するが、なかでも1960年代後期の名曲をまとめた『Through The Past, Darkly(Big Hits Vol.2)』は、選曲・曲順ともに完成度が高く、入門にも最適な一枚です。
Amazonで『Through The Past, Darkly(Big Hits Vol.2)』を見る

二次的資料としてはストーンズの研究書もあります。中山康樹『ローリング・ストーンズを聴け!』は、50枚のアルバムを1枚ずつ論じています。著者は元『スイングジャーナル』編集長の音楽評論家です。未収録のスタジオ録音盤は『BLUE & LONSOME』『HACKNEY DIAMONDS』と2026年7月に発売される『FOREIGN TONGUES』だけです。→Amazonで『ローリング・ストーンズを聴け!』の価格・レビューを確認する

次の記事(NO.9「経営活動を欠くビジョンは白昼夢である-ビジョンと経営理念を考える-」)はこちらです。

前の記事(NO.7「いつもよりたくさん回していたか-DCFと割引率の関係-」)はこちらです。

シリーズの全体構成・INDEXに戻る。

■その他のシリーズ

シリーズ1:簿記はいらない!経営分析

シリーズ3:YOKOHAMAの歌を読む

タイトルとURLをコピーしました