NO.7 赤字の形態と不健全資産の処理

キャッシュフロー

1.債務超過はなぜ嫌われるのか

日本経済新聞の最終面に長年続く連載『私の履歴書』があります。各界の著名人が一ヶ月にわたり短い自伝を綴る人気コーナーです。あるとき、オービック会長兼社長の野田順弘氏が、1978年に起きた出来事を紹介していました。

オービックの取引先である某社が「債務超過に陥り、にっちもさっちもいかなく」なり、社長と専務が債権者に詫びるために自殺したというのです。ところが後の調査で、その会社は実際には債務超過ではなく、支払い余力があったことが判明したといいます。 この短い記述だけでは詳細はわかりませんが、「債務超過」という状態が経営者に死を覚悟させるほどの重圧を与えるのはなぜでしょうか。

このブログの決算書分析の目的は「倒産リスクの高い企業の選別」です。しかし学生の中には「企業は赤字になると倒産する」と誤解している人が少なくありません。確かに赤字が原因で倒産に追い込まれる企業は多いものの、厳密には 赤字そのものが倒産の直接原因ではありません

企業が倒産するのは、支払能力を喪失したときです。 支払能力の喪失とは、資金調達力の喪失とほぼ同義です。金融機関が大きな赤字を抱える企業への融資を打ち切り、その結果として倒産に至ることはありますが、他の金融機関やスポンサーから資金供給が続く限り、企業は倒産しません。

■ 赤字の3つの形態

赤字(損失)には次の3種類があります。

  1. 当期赤字(損失)  単年度の決算で赤字になった状態。収益<費用。
  2. 累積赤字(損失)  赤字が累積し、または単年度で大きな赤字を計上し、資本金に食い込んだ状態。
  3. 債務超過  赤字が拡大し、資本金を上回った状態。  資産総額<負債総額となり、純資産がマイナスになる。

当期赤字でも、過去の利益の蓄積(内部留保)が赤字額を上回っていれば累積赤字にはなりません。逆に、累積赤字や債務超過であっても当期は黒字というケースもあります。

■ 債務超過が金融機関に嫌われる理由

企業は株主に対して資本の返済義務を負いませんが、借入金には元本返済義務と利息支払義務があります。利息は営業外費用の段階で支払われ、当期純利益の段階ではすでに利息の支払いは完了しています。

株主は金融機関よりも大きなリスクを負っており、金融機関側から見れば「負債はリスクを負担しない」と表現されます。しかし企業が債務超過に陥ると、資産を全額処分しても負債が残る状態になります。 つまり、本来リスクを負わないはずの金融機関が損失を被る可能性が生じるのです。

野田氏の記事に登場する社長と専務は、金融機関だけでなく他の債権者に対する責任を痛感し、追い詰められたのでしょう。

2.不健全資産の処理

野田氏の記事に出てくる某社は、表面上は債務超過だったようですが、決算書分析では「表面上の健全性」に惑わされてはいけません。 貸借対照表の資産項目の健全性を精査し、不健全資産を資産と純資産から控除して実質的な財務状態を把握する必要があります。

不健全資産とは、資産性(換金性)に欠ける資産のことです。資産性の乏しいものや、本来費用とすべきものを資産計上している場合、総資産が水増しされ、利益も過大に見えるからです。

■ 代表的な不健全資産

仮払金  処理すべき科目や金額が確定していない支払。多くは費用性で資産性なし。

短期貸付金  回収不能な売掛金や不渡手形を貸付金に振り替えて赤字計上を避けるケースがある。  純粋な貸付金でも貸付先によっては資産性が乏しい。長期貸付金も同様。

未収収益  利息・家賃・手数料などの営業外の継続的未収。回収不能の可能性あり。

繰延資産  長期前払費用的な性格を持つ擬制資産。資産性は乏しい。  創立費・開業費・開発費など。収益力のある企業なら費用処理しているはず。

また、棚卸資産の不良在庫売掛金や受取手形の不良債権化も不健全資産に該当します。

■ 不健全資産の見抜き方

勘定科目明細書の確認  売掛金・受取手形の残高が前期と変わらないものは固定化の疑い。

回転期間分析による推定  経営者ヒアリングで売掛比率・売掛期間・手形サイトがわかれば、

予想残高=月商 × 売掛金(または受取手形)比率 × 回収期間

この予想残高と実際の残高が大きく乖離していれば、不健全資産の可能性が高い。  取引先別に行うとさらに精度が上がる。

■ 不健全資産の処理方法

不健全資産は 資産と純資産から控除します。

  • 純資産 − 不健全資産 < 0  → 実質債務超過とみなす。

また、不健全資産の 対前期増加額は当期純利益から控除します。

  • 当期純利益 − 不健全資産の増加額 < 0  → 実質赤字とみなす。

表面上の決算書が健全に見えても、不健全資産を除外すると実質債務超過・実質赤字となるケースは珍しくありません。 財務分析では、この「実質値」を把握することが極めて重要です。

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